ヒットは予想外…映画「福田村事件」 多くの壁を乗りこえ見えた光景とは
関東大震災後に起きた虐殺事件を描いた映画が話題となっています。沖縄での公開を前に、この映画を監督したジャーナリストで作家の森達也さんにインタビューしました。
「オウム真理教」「ゴーストライター問題」など、「タブー」に切り込むドキュメンタリー作家として知られる森達也監督。
その森監督がドキュメンタリーではなく初の「劇映画」に挑んだ作品「福田村事件」。関東大震災直後の混乱の中で起きた虐殺事件がテーマです。
森監督「いわゆるメディアのタブーみたいなものですよね。『朝鮮人虐殺』。政府は東京都も含めて否定の見解を出しているわけですからね、やるからには相応の覚悟が必要になるし…。」
物語の舞台は百年前。関東大震災という未曾有の災害に見舞われた人々が混乱の中で飛び交う「流言飛語」を信じ、歪んだ正義を振りかざして暴走していく姿が描かれていきます。
善良なはずの村人たちが罪のない人間を惨殺してしまった、という史実を基に語られてこなかった日本の闇を映し出すこの映画。完成までには たくさんの壁が立ちはだかりました。
森監督「テレビの仕事もしてましたからテレビで報道番組の特集枠みたいなね。 各局にプレゼンテーションしたんですけど、まあ結果的にはどこもダメで。でも考えたら劇映画にすればいいんだと思いついて。」
「劇映画の企画書をつくって 今度は映画会社いくつか回ったんですけど やっぱりどこもダメで。多分こういう映画作っても誰も観に来ないと、リスクがあまりにも大きい。つまり抗議であったりとか上映中止運動が起きるとか、そうしたことを考えたらこんなモノは触らない方がいいだろうという。 恐らくはそういう判断じゃないかなと思いますね。」
森監督はやむなく映画の製作費をクラウドファンディングで調達することにしました。すると予想を超える支援が。
森監督「いまのこの社会。あるいは政治。あるいはこの国の過去への向き合い方に対して、やっぱり違和感を持っている人がとても多かったんだなって あらためて実感しますね。」
こうして製作費の目途は立ちました。しかし、新たな不安が監督を悩ませることに。
森監督「最初のミーティングでは 誰が出てくれるんだみたいな。そういう話をプロデューサーたちとしてました。つまりどう考えてもこれは、言ってみれば『炎上案件』ですよね。上映が近づいたら上映中止運動がきっと起きるし、反日映画ときっと罵倒されるでしょうし。そうした映画に出てくれる俳優がいるんだろうかと。ほんとに危惧してました。」
「でもふたを開けてみたら、みなさん即答してくれましたね。出ますと。ちょっとびっくりしました。だから俳優たちもやっぱりこうした映画をつくらないと日本の映画は世界から取り残されるみたいな、そういう危惧を持っていたんだなって実感しました。びっくりしました。」
映画「福田村事件」には豪華なキャストが集結しました。覚悟を持った俳優たちの情熱に支えられ ついに映画は完成。そして、関東大震災から百年目の節目に合わせ日本各地で公開されると大勢の観客が劇場に殺到しました。
森監督「僕もちょっと、ここまでヒットするとは予想外だったんですね。ただまあ 8月の段階でちょっと予感があったのはメディアの取材が尋常じゃないくらいの量で…。」
「思ったんですよ。要するにずっと東京都・小池都知事は虐殺の犠牲者に対して追悼文を彼女は就任からずっと送っていません。虐殺があったことを認めないってことはありえないわけで、資料いくらでもあります。証言もたくさんあります。新聞にも載っています。ところがそれを認めない。だからそれに対してメディアの人たち、つまり記者とかディレクターとかライターとかもいくらなんでもそれはないと思ってたんですね。きっとね。」
「僕が思うより遥かに多くの人が、だからこそこの映画を素材にすればそうした違和感を表明できるときっと多くの人が思ったんだろうなって気がして。それは封切ってからさらに今度はたくさんの方が観に来てくれて。」
「メディアだけじゃないんですね。一般の人もやっぱりこれおかしいと。今の日本の在り方、今の社会、今の政治。なんかおかしいぞという気持ちを持つ人が、僕が思っている以上に多かったんだなと。嬉しい誤算ですけどそう思ってます。」
「国」「村」。集団になった時の人間の恐ろしさ。善良なはずの人間でも 残忍な加害者になる可能性があることを、この映画「福田村事件」は見るものに 突きつけます。
森監督「ディープフェイクであったりとか、特にネット上では色んな形でCGもふくめてフェイクが増えてきている。百年前の事件ですけど百年前に終わった事件じゃないと、むしろ今につながっている。もしかしたら今の方がより大きな、さらに大きなスケールでこうした事が起きるかもしれないと。そんな事を思いながら観てください。」
映画「福田村事件」、沖縄では30日から公開されます。
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