コラム
現存する沖縄最古の映画館「首里劇場」に惹かれて【小林美沙希のみさきいろ】

目次
首里劇場を知っていますか?
1950年に開館し、今年で73年…。
いまにも崩れ落ちそうな古びた映画館が首里にあるのをご存じですか?
その名も『首里劇場』。

この建物が県外だけでなく、海外からも多くの観光客が訪れる首里城にほど近い、首里大中町の住宅街の中にあるのです。

建物正面に書かれた、味のある『首里劇場』の文字はペンキがはがれかけ…。
昔書かれていたであろう『映画 演劇』の文字までもうっすらとみえます。
この古びたたたずまい、正直廃墟なのかと疑ってしまうぐらいなのですが、2022年まで営業を続けていた映画館なんです。
この数年、取材を続ける中で語り切れないほどのドラマがある首里劇場に惹かれ、ついにドキュメンタリー番組を制作するにいたりました。
番組の放送に向けて、少しだけ私から見た首里劇場のことをお伝えしたいと思います。
成人映画のイメージが強い場所
首里劇場を私が取材していたと言うと、「なぜ女性が…?」と思う方もいるかもしれません。
長きにわたって住宅街の中で『成人映画』を上映していた首里劇場は、ちょっと近寄りがたく、どうしても近くを通るときにはそそくさと通り抜けていた…、と話す方もいるような場所だったからです。
私が初めて取材したのは2021年。
それまで成人映画を上映していた首里劇場が、昭和の名画を上映する“名画座”に変わるということで、ぜひ取材しませんかとお話をいただいたのがきっかけです。

そもそも私は首里劇場の存在すら知らず、成人映画を上映していた時代も知らなかったので、どんな場所なのか想像もつかなかったのですが…。
実際に行ってみると、閑静な住宅街の中に劇場があることに、まず驚きました。
鳥のさえずりや風の音が心地良く響く、とても静かな場所です。

ひび割れた壁に、周囲に生い茂る木々。
上映している映画のタイトルやキャッチコピーなど、手書きのポスターがまたいい味を出しています。

客席に一歩足を踏み入れると、クーラーも入っていないのに少しひんやりした独特の空気があります。
そして並ぶイスを見てみると、種類がバラバラです。


家族経営で細々と営業を続けてきた場所なので、“使えるものは何でも使おう”と、県内の映画館が閉館するときには使わなくなったものをもらいに行き、譲り受けた品々を大切に使っているのだということ…。
館内にいると、ここだけ違う時間が流れているような…。
不思議な空間に迷い込んでしまったかのような気持ちになります。
首里劇場はかつて映画館としてだけでなく、沖縄芝居を上演する『芝居小屋』でもあったため、舞台裏に回ると当時劇団の人達が炊事に使ったという、“かまど”も残っています。


劇場を守る名物館長
劇場の仕事を全てひとりでこなすのは、金城 政則(きんじょう まさのり)館長。
初代館長である叔父、2代目館長である父から劇場を引き継ぎ、3代目の館長として劇場を守り続けてきました。

コロナ禍で配られたあの布マスクを大切に着け、館長ご自身が編み出したという「ハブ拳法」のポーズを披露して歓迎してくれるお茶目な方です。
取材にうかがった2021年はコロナ禍まっただ中。
首里劇場にも全くお客さんが来なくなり、無観客上映が続いたと言います。
そんな中で、金城館長は新たなお客さんを呼ぼうと昭和の名画を上映する『名画座』へと転換することを決めました。

「ここは昭和の味を残しながら、古い・汚い・臭いをモットーにしてやろうと思って」
と笑いながら話してくれた館長は、ちょっと照れくさそうでもありましたが、新たな出発に心躍らせているように見えました。

名画座初日には男性も女性も足を運んでいて、これまで少し近寄りがたいと感じていたという地域の方の姿も。
ノスタルジックな場所で昭和の名画を観て“1970年代にタイムスリップしたかのような空気を味わえた”と好評でした。

しかし、それから1年も経たないうちに館長は病気で亡くなり、首里劇場は取り壊しの危機に直面することになってしまったのです…。
首里劇場を残したい
生涯独身だった金城館長。後を継ぐ人もおらず、建物の老朽化も激しいため、首里劇場は取り壊される可能性が高くなりました。
しかし、「このまま取り壊されるのを見ている訳にはいかない」と、首里劇場を何か形に残そうと奮闘しているのが“首里劇場調査団”です。

みなさんそれぞれ首里劇場に思い入れがあるだけでなく、建物自体が文化的にも貴重な場所であることを伝えたいと、記録や記憶に残すために活動しています。
今回、番組では調査団のみなさんの活動や、思いについても取材しました。

首里劇場の貴重さを知ってもらおうと調査団が開く内覧会には、多くの人が足を運んでいます。
ドキュメンタリー番組に
こんなにおもしろい場所があることを一人でも多くの人に知って欲しいという思いから、今回ドキュメンタリー番組を制作しました。
首里劇場についてはこれまでもニュースで何度かお伝えしてきたのですが、やはり歴史ある場所なので短い時間では伝えきれないことも多く、番組として伝えることができたら…と前々から考えていたので、まずは形にすることができ、うれしく思っています。
今回は、ドキュメント九州というフジテレビ系列の九州各局で放送される枠での番組化ということになったので、沖縄県外の方にも見ていただける可能性があることもうれしいことです。

取材に応えてくださった方々の思い、そして私の思いも番組にたくさん詰め込みました。
「ドキュメント九州 首里劇場 沖縄に残る奇跡の映画館」
6月2日(金)午後2時48分~
ぜひご覧ください。
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