コラム
スラムダンクのモデルとなった名将にバスケの話を聞くつもりが、人生の教訓を教わった【稲嶺羊輔の いつも笑顔で!】

名将・安里幸男とは

バスケットボール界では知る人ぞ知る名将・安里幸男。
沖縄の本土復帰間もない1970年代、当時まだ沖縄のバスケに注目する人は少ない中、安里氏は1978年の全国高校総体(山形)で辺士名高校を全国3位・特別敢闘賞に導いた。
今でも多くのバスケファンに語り継がれる辺士名旋風だ。
平均身長が160センチ台と出場チームの中で最も低い選手たちは、オールコートでの激しいディフェンスに加え、相手選手がシュートを放つと同時にオフェンスの体制を整える「超速攻」を取り入れ、全国に辺士名旋風を巻き起こした。
当時のバスケ界に風穴をあけるような新しいプレースタイルを一目見ようと、会場は他校の選手や関係者でごった返したという。
その後、安里氏が率いた国体男子成年チームは全国3位(1985年・鳥取)、1991年には赴任からわずか2年で北谷高校が全国高校総体(浜松)3位に輝いた。
かつて自身がプレイヤーだった頃、沖縄で指導者に恵まれず悔しい思いをしてきた経験から、選手育成の道を志すようになったという安里氏。その辣腕ぶりは、現在(2023年4月時点)も大ヒット上映中の『THE FIRST SLAM DUNK』の原作漫画内に登場する陵南高校・田岡茂一監督のモデルとなったとも言われている。
名将にバスケットボールの話を聞くつもりが、人生の教訓を教わった

2023年3月某日、同年8月に沖縄アリーナで開催されるバスケットボールW杯(ワールドカップ)に向けた勉強会が那覇市首里で開かれ、この中で安里氏が講師として登壇した。
参加者の多くはメディア関係者ということもあり、どのようにワールドカップを盛り上げていくべきか、見どころはどんなところなのか、そういった話になるのかと思いきや、安里氏の口から語られたのは、人生に通じる教訓だった。
安里幸男・5つの掟

安里氏は語る。
「バスケットボールに通じることは、人生にも通じる。プレイヤーにとってもそうだし、この掟はあなたたちの普段の仕事や生活にも通じる。ぜひ心にとめておいてほしい」。
掟その① 笑われるぐらいの目標を掲げよ
安里氏は辺士名旋風を巻き起こした1978年の全国高校総体を前に、ある目標を掲げていた。
「日本のバスケットボールの方向性を示すゲームをする」。
当時まだ名も知られていなかった沖縄のチームが掲げるにはあまりにも大きすぎる目標だったかもしれない。
それでも安里氏は「笑われるぐらいの目標」の達成のために日々エナジーを燃やし続け、サイズありきだった当時のバスケ界へのアンチテーゼと言わんばかりに、新たなバスケットボールの形を全国に示したのだ。
日々の生活に忙殺されていると目先の目標でいっぱいいっぱいになってしまうこともあるが、私自身も今一度立ち止まって「笑われるぐらいの目標」についてじっくり考えてみたい。
余談だが、身長が小さくてもスピードで相手を翻弄する沖縄バスケのプレースタイルは、前述した『THE FIRST SLAM DUNK』内で宮城リョータが体現しているが、宮城リョータのモチーフとなっているのも安里氏が指揮を執っていた北谷高校の選手「宮城」だと言われている。
掟その② 何事にも用意周到で臨め
これは個人的に非常に響いた教訓で、私自身面倒なことをつい先延ばしにしてしまう癖が…
「面倒だ」と思いながら取り組むのではなく、考え方を変える必要があると安里氏は話す。
「しっかりとした準備をして臨めば、明日が待ち遠しくなる。地味な基礎練習、新たな戦術、昨日・今日よりも成長した自分で、年間何回ワクワクしてコートに立てるか。その数が多ければ必然的に成長に繋がる」。
なるほど。
ワクワクして明日を迎えるための準備と思えばポジティブに臨めそうだ。
掟その③ 日々、小さな感動を与えよ
スポーツ取材をしていて一番興奮するシーンと言えば、試合終了間際の逆転勝利だ。
こんな状況でシュートを決められるなんて、何て才能にあふれた「持っている」選手なんだ!と思ってしまうが、その感動の陰には日々の積み重ねがある。
スポーツであれば、新たな技術を習得して成長した姿は、応援してくれている人の感動を呼ぶ。そんな積み重ねが大舞台でのビッグプレーに繋がる。
社会生活においては、仕事で困っている人を助ける、何か小さなサプライズで人を喜ばせる、こういった積み重ねが信頼へと繋がり、いつか大きな成果・感動に繋がると安里氏は語る。
ちなみに安里氏は、かつて赴任先の学校のイベントで、マグロの解体ショーを秘密裏に計画し実行したことがあるという。超速攻の戦術だけでなく、日常でもサプライズ好きなようだ。
掟その④ 小さな約束こそ守れ
なかなか勝ち星に恵まれていなかった他校の指導者と立ち話をした際に「今度ぜひ飲みに行きましょう」と誘われた安里氏。
どんなに小さな約束でも果たすのが安里流。社交辞令とは思っていない。誘いのあった相手からの連絡を待っていたが、結局その飲み会は実現しなかったという。
安里氏は「もったいない」と独り言つ。
「もし飲み会が実現していたら、私は指導者仲間にも声をかけてチームのためになるような話もできただろう。チャンスは小さな約束の先に待っている。それを生かすも殺すも自分次第。守ることで得られるものがある」と安里氏は語る。
掟その⑤ 夫婦互いがリスペクト出来るような生き方をせよ
私は未婚ですが、今後の教訓として・・・
夫婦が互いにリスペクトし、生き方を尊重できる関係性が重要だと安里氏は話す。
そうあれば、日々社会の荒波の中で揉まれ疲弊しようが、理解しあえる相手の元でエネルギーを充電できる。そしてまた明日も頑張ろうという活力になる。
安里氏が今も目標に掲げて取り組んでいるのは「妻を毎日何かで笑わせること」だという。
これは掟その③「日々、小さな感動を与えよ」にも通じる部分かもしれない。
名将の言葉には人生のヒントが詰まっていた
沖縄のバスケの歴史を変える輝かしい功績を残してきた安里氏には、上述したように貫いてきた信念があった。
そのほとばしる情熱を受け取った私自身も、安里氏の教えを教訓として日々のニュースの現場に向き合っていきたい。

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